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甲斐犬との出会い

今をさかのぼる事20年以上も前、私は山に恋焦がれ渓流釣り、春は山菜取り、秋はキノコ狩りと年中出歩いていた。
女の身で、ましてや10代の年齢でそんなことに明け暮れていたのは相当な変わり者だったせいだろう。
18歳の頃だったか、福島のとある民宿のご夫婦は子供がいなかった。
こんな変わったもののけ姫を娘の様に可愛がってくれ、私も毎年何回も通っていた。
そこのご主人は山師である。
山菜、キノコ狩りで生計を立てている人にとって、山の恵みのある場所は、たとえ親兄弟の間柄であっても教えたりはしない。
これは、私とて同じ。みんなそれぞれ、秘密のポイントなのだ。
そんな大事な場所を案内してくれるという!!
喜び勇んでついていき籠にずっしりと、重たいほどの山の恵みを頂いた。
帰りにかかった時「なぁ・・・この山の奥に熊追いの猟師がいる。
人嫌いだが良い奴で、私とは飲み友達さ。行ってみるかい?きっと、お前なら奴も喜ぶさね」 「・・・・・・熊追い猟師」期待と不安と複雑だった、が・・・・・それを上回る好奇心でいてもたってもいられない。
「おじちゃん、行こうッ」
そこから奥へ入る事小1時間だったろうか?人里をはるかに離れた小さな山小屋、所々傷んだ古びれた小屋だ。
「居るかい?」中へ入るとそこには、年のころは60近いのだろうか体の大きな熊のような人が目だけ光ってこちらを見ている。
「こ・・・・・こんにちは」
「おい、タカちゃん、なあんだなぁあ~この子は」その目つきの鋭さは人のものではないようにさえ感じられるほど、鋭くでもどこか懐かしい光だった。
「おぉ、この子は普通の女の子とはちぃっとちがうでな。俺の山足に付いてきよる。ほれ、こん子のとったお土産だ」
「ほほぉぉぉーーー」(気に入って貰えたんだろうか・・・・・・・)
「まぁ上がれャ。」
「お前、女の子と話すなんザァ、何十年ぶりかァ???(笑)」
そこで勧められたのは、山葡萄で作った酒であった。
元々いける口の私は、恐る恐るひとナメなめる・・・・「なんて・・・美味しい!!」今まで飲んだ事もないような甘さと香り。
まさに絶品だった。「おいおい、俺だけ来る時とは随分違うなぁ・・・ハッハハハハ」おじちゃんは腹を抱えて笑った。
熊に対しての思い、山に対する尊敬・・・・一言一言がとても興味深かった。
自然とともに見事に調和した生き方。
私は心が揺れて足のしびれるのもすっかり忘れるほどだった。
何気なく土間に振りかえると、6個の鋭い眼光が私達を見ている。
暗かったので姿が良く見えない。
目をこらすとそこには3匹の見事な虎毛の犬達!「ワァァーー」と腰を抜かした私に、猟師は言った。
「最初から、ずっと奴らはあそこにいったぞ。
気配を消すのはお手のもんだ。」これが、猟犬!
福島はツキノワグマが主だ。それとさしで闘う犬達。鳴き声一つ、鼻息さえ聞こえなかった。
私が過去に接してきた犬達の中にも狩猟に長けた犬が数頭いたが、まるで、比べ物にはならない気迫。
「こいつらはな、俺が飼ってるんじゃぁない。 一緒に生きるための仕事をしてる相棒だ。俺が死んだら、俺を食って生き延びれば良いのさ。」
私の想像を絶する環境の中で、本能のままに生きるという事、それは凄まじい世界なのだと実感した。
その猟師は1年の内で熊を倒す頭数を、山の神様に伺いを立てるのだそうだ。皮一枚、歯一つ無駄にはしないそうだ。
その時は、【甲斐犬】を私は知らなかった。
ただ、思ったのは赤まだらの勇者・・・・・そんな出で立ちだった。 「山の暮れるのは早い。そろそろ下りた方が良いな」名残惜しい気持ちを押さえて立ちあがると、猟師が犬達に指差してこういった「行ってやれ」 音もなく立ちあがった犬達は、山を下りる私立ちを三角に等まきに囲み先導の一番からだの大きい犬が導いてくれていた。
あっという間に中腹の車の見えるところまでたどり着いた。
「こんなにちかかったっけ?」お礼に頭を撫でてやろうと振り向くと、そこには犬達の姿はどこにも無かった。
おじちゃんは、「奴らは、俺達に気取られるような動きなんかしないさ。」と笑っていた。
車にたどりいた時には、空一面真っ赤に燃える夕焼け空「きれいー」磐梯山も真っ赤に染められている。
と・・・・・・・・下りてきた山肌の突き出た崖に何か立っていた。
目をこらして見ると、なんと・・・・そこには真っ赤な夕日に照らされて、黄金色に輝く虎毛の3匹が雄雄しく立ちこんで、こちらを見下ろしているではないか!
私の心に強烈に、「夕日に染まりし紅の犬」そんな言葉が浮かび上がる。
鍛え上げられた鋼の体に輪郭が金色に輝き、見下ろす姿は言葉を失った。
私はその時将来大人になったら、こんな犬達に囲まれて暮したい。そう思った20年前・・・・・・・
今現実となって、私の手元に三兄弟が居る。
思えば不思議な出会いだった。
リキが家に来た時(どこかで見た犬)とずっと思っていた。
そう・・・・20数年前、私の心に焼きついた、あの金色の犬だったあのである。
我が家の万遊記の始まりだったのだ。